南米ボリビアの奥地で、1000年以上も前から
アンデスの人々の健康を守ってきた医者、カヤワヤ。
神聖な大地の生命を象徴するという赤いポンチョを身につけ、
旅をしながら治療にあたる、アンデスの民にとって赤ひげのような存在です。
インカ時代、このあたりは「医者の国」と呼ばれ、
19世紀末のパナマ運河建設の際には、マラリアに苦しむ労働者の多くの命を救いました。
「医者の国」の中心、チャラサニには、
町で一番と評判の高いアウレリオ・オルティスさんの一家が住んでいます。
明日から治療の旅に出るとあって、この日は家族総出で薬草採りです。
ここはわずかなジャガイモやトウモロコシしか育たない痩せた土地でも、
高山から亜熱帯まで3種類の異なる気候を併せ持つため、
薬草に向く生命力の強い植物が育ちます。
作物の代わりに、200種類を超える良質な薬草に恵まれるのです。
この日集めた薬草を煎じ、オルティス家伝統の万能薬が作られました。
カヤワヤの医術は一子相伝。口伝えで一族の男子に受け継がれます。
たった一人の跡継ぎ、16歳のホセは跡を継ぐかどうか、まだ迷っています。
オルティスさんは今回、ホセの学校の休みを利用して旅に連れて行くことにしました。
ところが、カヤワヤの伝統継承には、さらに心配なことがありました。
南米各地で続く、豪雨や干ばつなどの天候異変で、
カヤワヤの命とも言うべき薬草が次々と枯れているのです。
オルティスさんは100年、200年後の子供たちのために何ができるか、考え始めました。
■語り 緒形 拳
■演出 奥村健太
■演出補 小島典浩