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語られなかった東日本大震災 ~Episode 24~

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『ありがとう』

おにぎり。

ちなみに手作り。
実はこれ、取材中に相手からいただいたものだ。
帰りのバスの中で食べた味は、とても美味しかった。

岩手県陸前高田市から始まり、気仙沼市、石巻市、仙台市、南三陸町…
1年間被災地を取材してきた。
いろんな人に出会い、たくさんの貴重な話を放送してきた。
その中で僕が忘れる事ができないのは、取材相手からもらったもの。
おにぎり、缶コーヒー、揚げ串、牛タン、おでん、かまぼこ、いちご…。
「もってけもってけ」「遠慮すんな」
シーンの一つ一つ、言葉を鮮明に覚えている。

「被災者からいただく」ということは、どうも、悪い。
被災されているわけだから。ただでさえ自分の生活が大変なのに、
数日の仕事のおつきあいで会った僕たちに、身銭を切らせている。
ただただ、悪い、と思った。
この内容自体を書くのも、気が引けたのも事実だ。

テレビ取材をお願いする上では、基本的にお金のやり取りはしない。
僕たちは、取材相手の忙しい一日の中で、打ち合わせの電話の時間をもらい、
仕事の時間を削らせて、カメラの前に立たせている。
もらいっぱなし、なのだ。
さらにその上に相手からいただきものをするのは、何かを返したい、という気持ちに駆られる。

だから、放送日を迎え、無事に映像を流すという事は、一つに、
手紙のようなものだと思っている。

ありがとう。

放送をすることは、相手にとってお返しにならないかもしれないが、そう言いたくなる。

政治の裏側をあばく。世界情勢を知らせる。困っている少数の意見を強調する。
報道には、いろんな面がある。
マスメディアは、国民が、知る機会を得るために開発した装置だ。
振りかざすことができる剣は、少し重い。
一方で、レンズがとらえない、放送には決して反映しない、小さな小さな、取材相手とのやりとりを、
大事にしたい。
被災地と1年間対峙して、僕は改めてそう思った。

「なんだか寂しいね」
今月、南三陸町で密着した一家の一人から、別れ際に言われた一言だ。
その時カメラは回っていない。
たった2日間の取材だった。
心底、嬉しかった。
僕も寂しかった。また会いたい、と思った。
この人たちが、本当に助かってよかった。

僕たちマスメディアにできるのは、被災地に思いを馳せ続けること、だ。
レンズの外側でくれた贈りものに、僕はお返しをしなくてはならない。

 

責:制作部 黒崎淳友

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