「共通の思い」
震災から2ヶ月経った埼玉県の避難所。
福島県双葉町から避難して来た被災者たちの反応は
1ヶ月前に来たときと比べ、明らかに違っていた。
声をかけた人の多くは足を止め、しっかりと話をしてくれる。
ところが、カメラでの取材をお願いした途端に皆が首を横に振り出す。
「カメラに答えたら、みんなから“吊るし上げ”られちゃうからさ。」
辺りを気にするように小さな声で
以前は取材に応じていたというおじさんが僕に教えてくれた。
どうやらテレビ番組に出ると、
それを観た周りの人たちから厳しい追及に遭うというのだ。
話を聞いた被災者の中には原発関連で働いていたという人も多く、
原発批判については複雑な思いがあるのだろう。
「何、タレント気取ってるの」
「そう言われてからは取材には応じないようにしている」と
何度かテレビの取材に答えたというおばちゃんは苦笑いをした。
前回にこの避難所を取材したのは移って来て間もないときだった。
そのときも取材に応じてくれる人は決して多くはなかったが、
他の被災者の目を気にしてという感じではなかった。
しかし、今避難所では些細なことをきっかけにケンカが起きているという。
生活への不安ややり場のない怒りも人々の言葉の端々から感じられる。
「都合の良いときにしか来ないメディアの取材になんか答えたくない」
僕自身が取材される側に立ったなら間違いなくそう思うだろう。
しかし、彼らの話を映像に収めるためにここに来ている。
被災者の話に悠々とペンを走らせる新聞記者たちを横目に
僕はひたすら声をかけ続けた。
結局、この日にインタビューができたのは3組。
「やっぱり早く自分の家に帰りたいのが一番の希望なんです。」
あと2年で80歳を迎えるというおばあちゃんが
声を震わせたわずか10秒ほどの言葉。
この希望だけは被災者に共通した思いだ。
文責:制作部 杉井真一