『余所者』
「3月11日に起きました東日本大震災…」
カメラを回し始めた直後に町内放送が突然スピーカーから流れ始めた。
宮城県の亘理町(わたりちょう)という小さな町で取材中の出来事だった。
一瞬何の放送かわからず、取材中だったイチゴ農家のお父さんの方を向く。
「3ヶ月…。」
お父さんが呟いた一言にはっと気付き、すぐ時計に目をやる。
やはりそうだ。
時計の針は間もなく「午後2時46分」を指そうとしている。
6月11日。
その前日の金曜日、「あすで震災3ヶ月」という被災地からの
中継企画のため、僕は南三陸町にいた。
中継オンエアを無事に終え、深夜になってから仙台のホテルに帰ってきた僕の中では
「震災3ヶ月」はすでに終わっていたのだ…。
「それでは1分間の黙とうを行います」
カメラを止めて黙とうをしようとカメラマンと音声に慌てて伝える。
瞼を閉じての1分間。
自分の中に恥ずかしさと申し訳なさが込み上げる。
「結局、余所者なんだ」
この3ヶ月間、その半分近くを被災地で取材をしてきた僕は
被災者の大変さを多少なりとも理解しているつもりだった。
しかし、実際に地震、そして津波の被害に遭った被災者なら
決して「震災3ヶ月」を忘れることはない。
「俺ら、マスコミは呼ばれてもいないのに訪れているんだよ。」
震災後初めて被災地へ行こうとする僕に先輩ディレクターが言った言葉。
東京へ帰る新幹線の中でもう一度その言葉を噛みしめた。
余所者でもいい。
お客さんとして迎えてもらえるように礼儀と節度を持つ。
土足で踏み込むようなことはしない。
招かれざる客にならないように。